家 族
(昭和45年度作品ー松竹映画)
家族(昭和45年度作品ー松竹映画)は、我がペンションから車で約60分の旧中標津駅(標津線は1989年4月29日の運行を最後に廃線になったため現在は無い。中標津駅跡には「家族の中標津駅跡」のポールが建っている)から程近い根釧原野開陽台付近の酪農地帯(第五章・六章)が北海道ロケ地の舞台で、高度経済成長時代の国策事業で有名なパイロットファーム計画(別海町)で全国各地から新規就農者(酪農)が集まった背景が、この映画のモデルである。
圧倒的広大な牧草地帯は、日本で数少ない地平線も見える「これぞ北海道の大地」といえる東北海道の有名観光スポットです。
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家 族 【 物 語 】
第一章 故郷の島を離れる
長崎港から六海里、長崎湾を抱く防潮堤のように海上に浮かぷ伊王島。
民子(倍賞千恵子)はこの島に生れた。
貧しい島を出て博多の中華料理店に勤めていた二十才の民子を風見精一(井川比佐志)が強奪するように遵れ戻った。二人は島の教会で式を挙げ、十年の歳月が流れた。
剛(三才)早苗(一才)が生れ、炭坑夫として精一、力(前田吟)の兄弟を育てた父の源造(笠智衆)も今では孫たちのいいおヒいちやんだ。精一には若い頃から夢があった。
猫の額ほどの島の炭坑で生涯を終るよリ、北海道の開拓部落に入殖し、未は酪農中心の牧場主になることだ。現に精一の親友亮太が北海道の開拓村で精一に来道をすすめてきている。
精一の会社がツブれたことによって、いよいよ決断を迫られる日が来た。
「塩なめてもポロ着ても、寒い冬にたく薪がなくっても、父ちゃんは行くとね」
それだけダメを押すと民子は、今まで反対していたことをケロリと忘れたように旅立ちの準備をはじめた。
莱の花が満開の伊王島の春、丘の上にポツンと立つ精一の家から早苗を背負った民子、日の手を引く源造、荷物を両手に持った精一が波止場に向かった。長崎通いの連絡船が、ゆっくり岸を離れる。最後のテーブが風をはらんで海に切れる。
見送りの人達が豆粒ほどになり視界から消えても、家族はそれぞれの恩いをこめて故郷の島を眺めつづけた。左手に巨大な三菱造船所のドックが見え、船は長崎港に入る。博多行急行列車に乗リ込む。
大村湾の静かな海、自由な感概が過去、現在、未来にわたり民子、精一、源造の胸中を去来する。生れて始めての大旅行にはしゃぎ回る剛。干拓の有明海が眼前にひらける。 酒好きの源造は酒。精一は菓子、早苗はミルク。卓内では食べること、眠ることが仕事だ。北九州、八幡製鉄所を過ぎ、急行列軍は本土へ。右手に瀬戸内海、そして徳山の大コンビナートが見えてくる。
第二章 福山にて
福山駅に力が出迎えていた。
すぱらしい自家用車で、大人四人、子供二人が乗るとギュウギュウのすし詰め、それでも力の勤めている巨犬な製鉄工場を眺めて、一同驚嘆する。軽自動車は力の住む団地にたどりつく。
はじめの予定では源造の力家に預けて行くつもリだった。苛酷な冬と開拓の労苦をおいた源造にだけは負わせたくないと思ったのである。寝苦しい夜が明け、民子がじいちゃんを北海道に違れて行くことを最っ先に言い出した。再ぴ汽卓の旅が続く。
第三章 大阪
家族は梅田駅の雑沓の中で、新幹線に乗る前の3時間を万博見物に当てることにした。
しかし万博会場の中央口に続々つめかける大群集を見て、民子は呆然、疲労の余り卒倒しそうになった。結局、引返すことになったが、伊王島の金貸しチンケとぱったり出合い民子はギョッとした。
チンケを騙して無利息無期限で島を出る間際に三万円借リていたからだ。
進退きわまった民子はチンケが女連れなのを見て、逆にチンケに啖呵を切って退散させた。
家族は新大阪からアタフタと新幹像へ、この長旅中唯一の豪華版だ。しかし、むづかる早苗は食欲を失っている。口は窓にしがみついて景色を見る。犬人達は疲れ切っていた。夕焼けの富士山麓を「ひかリ号」は飛ぷようにひた走る。
第四章 東京にて
早苗の容態は急変した。民子は旅館に油って医者に見せんうちは出発しないと言い張った。精一は渋々青森行の特急券をフイにして旅館に入る。民子と精一は早苗を抱いてタクシーで病院へ。
やっと探した救急病院だったが、すでに早苗はひきつけて手遅れになっていた。長い夜が明けた。
早黄の葬式のため精一は病院~区役所~火葬場と重い足を引きずリながら歩き統けた。民子は起き上る気力も失っていた。
上野での二日目が暮れ、再ぴ朝。
「マリア 風見早苗」それが天国に召された早苗の新しい名だ。教会から焼場へ。蒼白な、辛うじて失神に耐えている民子、それを支えるように精一、たった二人だけが見守る異様な火葬。
東北本線の沿線の樹や草はまだ枯れていて寒々とした風景だ。春の盛りの島を発ってから何日も経っていないのに、家族にとって、それは何年も昔のことのような気がする。風呂敷に包んだ早苗の遺骨が源造、精一、民子の座席を移る。母、父、祖父の誰かが早甫をしっかり抱きしめているのだ。
第五章 北海道に渡る
本土の北端、青森駅に真夜中に着いた。
青函連絡船の広い待合室に種々雑多な人が溢れている。連絡船の中で民子は、“島に帰りたか”と言った。夫と妻が激しく言い争った。そして、函館で夜が明けた。
室蘭本線から根室本線へ。
明るい北国の陽ざしが呆しなく広がる石狩平野を照らしている。しかし狩脇峠を越えると車窓は一面の銀世界だ。目的地中標津(なかしべつ)駅に着いた。出迎えのワゴンで夜の根釧(こんせん)原野を走り、遂に亮太一家の待つ開拓部落に到着。民子は早苗の骨箱を持ったまま、へたへたと座リ込んでしまった。
精一の新しい家がきまった。かなり荒れているが、それでも我が家である。その夜、亮太一家と精一の家族が揃って、ささやかな祝宴が開かれた何酔った源造が炭坑節を唄った。夜更け、皆んなが寝しづまった頃源造は眠るように生涯を終えた。
源造は北梅道の土に還リ、早苗の骨も同じ根釧原野に埋葬された。源造にはここまでくるのが精一杯だったのだ。
終章 六月
果しなく広がる牧草地は一面の新緑におおわれ、放牧の牛が草をかんでいる。
陽に焼けて健康そうに民子が中標津の病院に行く用事があるという。亮太は精一に念のために聞いた。やっぱり民子は妊娠したのだ。早苗を失い、源造も整れた家族に、春と共に新しい生ム岨が胎動しているのだ。名も知らぬ花が咲き乱れる丘の上に大小二つの十字架が立っている。
『ベルナルド 風見源造』『マリア風見早苗』
【 解 説 】
「家族」は日本列島の南端に近い長崎県伊王島から北海道、根釧原野の開拓部落まで、北上すること三千粁、 たった一週間に満たない時間の中で、平穏な島の暮らしでは到底、想像も及ぱぬ困難や事件にあい、おどろきと悲しみ、 言い知れぬ焦燥感にせき立てられながらも、夫の決噺、妻の勇気、老父の知恵が、肉親の死という最大の危機を越えて、 遂に「家族」が目的地にたどリつき、待望の春を迎えるまでを描きました。
と同時に、長崎の孤島、過疎の地から北九州、瀬戸内海沿岸の大工業地帯を過ぎ万博、京阪神、名古屋、東京の巨大な過密地帯のだん殷賑を見た。 そこにある交通戦争と公害と生存競争。そこに再ぴ貧しげな東北の農耕地帯を通過して超過疎の開拓地に安住を求めて行く。
昭和三十六年監督昇進以来、我が道を行く山田洋次の才能によって「家族」は単なるフィクションの域を脱し、事実をも圧倒する真実を凝視しています。
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